大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和57年(ワ)946号 判決 1985年7月31日

原告

上野啓一

原告

木下登運

桐畑こと

原告

松本芳美

原告

瀬川繁次郎

原告

上野栄二

右五名訴訟代理人

吉田隆行

右訴訟復代理人

竹下義樹

被告

新協運送株式会社

右代表者

洲崎昇

右訴訟代理人

松森彬

木村保男

的場悠紀

川村俊雄

大槻守

萩原新太郎

主文

一  被告は原告上野栄二に対し、金六万三五〇〇円及び同金員に対する昭和五六年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告上野啓一、同木下登運、同松本芳美及び同瀬川繁次郎の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告上野栄二に生じた費用を被告の負担とし、その余は原告上野啓一、同木下登運、同松本芳美及び同瀬川繁次郎の連帯負担とする。

四  この判決は一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  主文一項同旨

2  被告は、

(一) 原告上野啓一に対し金八四五万四八〇〇円

(二) 原告木下に対し金三〇三万二〇〇〇円

(三) 原告松本(旧姓桐畑)に対し金三二四万九四八〇円

(四) 原告瀬川に対し金二二〇万八三五〇円

及び右各金員につき昭和五六年二月四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  主張

一  請求原因

1  交通事故

(一) 日時 昭和五六年二月三日午後一時二〇分頃

(二) 場所 大津市逢坂一丁目六番地先国道一六一号線道路上

(三) 態様 井原昇一運転の普通貨物自動車(以下「被告車」という。)が、右道路上を京都方面から大津方面に向け東進中、信号待ちのため停止中の原告上野啓一運転、同木下、同松本及び同瀬川同乗の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)に追突した。

2  責任

被告は当時、被告車を自己のため運行の用に供していたものであるから、人損につき自賠法三条に基づく責任がある。また、物損につき、井原昇一は、被告の従業員として、その事業の執行として運転中、常に前方の交通状況に注意して安全を期すべきところ、これを怠り漫然と進行した過失により制動措置が遅れ、前記事故を惹起したのであるから、被告は民法七一五条に基づく責任がある。

3  受傷とその治療

(一) 原告上野啓一

(1) 頸椎捻挫、腰部挫傷

(2) 通院 昭和五六年二月三日より同年三月一〇日

(3) 入院 同年三月一一日より同年五月一九日

(4) 通院 同年五月二〇日より同年一一月四日

(5) 自賠責後遺障害 一四級の認定

(二) 原告木下

(1) 頸椎捻挫、腰部捻挫

(2) 通院 昭和五六年二月三日より同年一一月二六日

(三) 原告松本

(1) 頸椎捻挫、腰部捻挫、顔面打撲傷、左肩打撲症

(2) 通院 昭和五六年二月三日より同年三月三日

(3) 入院 同年三月四日より同年四月二三日

(4) 通院 同年四月二四日より同年一〇月三一日

(5) 自賠責後遺障害 一四級の認定

(四) 原告瀬川

(1) 頸椎捻挫、腰部捻挫

(2) 通院 昭和五六年二月三日より同年九月二四日

(3) 後遺症状 腰痛が持続し、時々ギクッと痛む。そのため屈んでする仕事が出来ない。

(4) 自賠責後遺障害 一四級の認定

4  車輛の破損

原告車は、原告上野栄二の所有であるところ、前記事故により修理費六万三五〇〇円を要する破損をした。

5  損害

(一) 原告上野啓一

(1) 入院附添費 二一万円

(2) 入院雑費 七万円

(3) 治療費 二二三万九八四〇円

治療費として三〇三万九八四〇円の出捐を余儀なくされ、大正海上火災保険会社より内金八〇万円の支払を受けた。

(4) 休業損 六〇〇万円

上野電機名義で電気工事及び電気器具販売業を営み、一か月六五万円の収入を得ていたところ、前記事故により九か月間稼働できず、この間の収入を失つた。

(5) 通院交通費 七万四八〇〇円

昭和五六年八月二六日より同年九月二四日までの間

(6) 慰藉料 二五〇万円

(二) 原告木下

(1) 治療費 四二万四四七五円

治療費として九〇万一〇二五円の出捐を余儀なくされ、大正海上火災保険会社より内金四七万六五五〇円の支払を受けた。

(2) 休業損 二七〇万円

原告上野啓一方に勤務し、一か月三〇万円の収入を得ていたところ、前記事故により九か月間稼働できず、この間の収入を失つた。

(3) 通院交通費 六万円

昭和五六年二月三日より同年一一月二六日までの間

(4) 慰藉料 一〇〇万円

(三) 原告松本

(1) 入院附添費 一五万三〇〇〇円

(2) 入院雑費 五万一〇〇〇円

(3) 治療費 一三八万七一一〇円

治療費として二一八万七一一〇円の出捐を余儀なくされ、大正海上火災保険会社より内金八〇万円の支払を受けた。

(4) 休業損 一〇三万五〇〇〇円

原告上野啓一方に勤務し、一か月一一万五〇〇〇円の収入を得ていたところ、前記事故により九か月間稼働できず、この間の収入を失つた。

(5) 通院交通費 九万五四八〇円

昭和五六年二月三日より同年一〇月三一日までの間

(6) 慰藉料 二〇〇万円

(四) 原告瀬川

(1) 治療費 三二万六三〇〇円

治療費として八七万五二五〇円の出捐を余儀なくされ、大正海上火災保険会社より内金五四万八九五〇円の支払を受けた。

(2) 休業損 一八〇万円

原告上野啓一方に勤務し、一か月二二万五〇〇〇円の収入を得ていたところ、前記事故により八か月間稼働できず、この間の収入を失つた。

(3) 通院交通費 五万九四〇〇円

昭和五六年八月二六日より同年九月二四日まで

(4) 慰藉料 一〇〇万円

(五) 原告上野栄二

前記車輛の修理費相当の六万三五〇〇円

6  損益相殺

原告上野栄二を除く原告らは、自賠責保険よりそれぞれ次のとおり支払を受けた。

(一) 原告上野啓一 四〇万円

(二) 同木下 七二万八〇〇〇円

(三) 同松本 四〇万円

(四) 同瀬川 六五万一〇五〇円

7  よつて、原告らは、被告に対し、次の各金員とこれにつき事故発生の日の翌日である昭和五六年二月四日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(一) 原告上野啓一 八四五万四八〇〇円(同額に満つるまでの内金)

(二) 同木下 三〇三万二〇〇〇円(前同内金)

(三) 同松本 三二四万九四八〇円(前同内金)

(四) 同瀬川 二二〇万八三五〇円(前同内金)

(五) 同上野栄二 六万三五〇〇円

二  答弁

1  請求原因1の交通事故発生の事実は認める。

もつとも、被告車は、原告車の七ないし八メートル後方に、ギアをニュートラルにし、ブレーキペダルを踏んで停止していたものの、同ペダルにかけていた足がゆるみ、たまたま現場が緩い下り坂(勾配一〇〇分の三)であつたため被告車が動き出し、井原がこれに気付いて急制動措置をとつたが間に合わず、原告車に追突した次第であつて、追突時の被告車の速度は時速五キロメートル余であつた。

2  同2の責任原因事実は、事故の態様を被告主張のとおり修正して認める。

3  同3のうち、原告上野栄二を除く原告らが主張の傷害を受けたとの点は否認するが、原告上野啓一及び同松本が本件事故後、約一か月を経てから入院していること、右同原告らが主張の各後遺障害の認定を受けた事実は認め、その余の事実は知らない。

仮に、原告瀬川及び同木下が本件事故により何らかの傷害を受けたとしても、当時、原告瀬川には老化現象による骨棘形成があり、そのため腰痛が持続していたし、原告木下は腰椎ヘルニヤの手術を受けていたうえ、原告瀬川は心臓病、同木下は肝臓病によりそれぞれ入院中の身であつたから、主張の愁訴も右の既往症や病気による可能性がある。

4  同4のうち、原告車が原告上野栄二所有であることは知らず、原告車破損の事実は否認する。

5  同5の原告らの損害に関する主張事実のうち、保険会社の支払分を認め、その余の事実は否認する。

6  同6の事実は認める。

三  抗弁

仮に被告に責任があるとしても、原告らは、それぞれ自賠責保険から後遺障害慰藉料分として、各七五万円の給付を受けている。

四  抗弁の認否

抗弁事実は認める。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の交通事故発生の事実は当事者間に争がないものの、被告において同事故の発生過程などにつき異なる事実主張を主張するから、この点を含めて当時の原告らの状況についても検討する。

<証拠>を総合すると、原告上野啓一(昭和一一年生)は原告上野栄二所有の原告車に、当時第二武田病院へ肝臓病で入院していた原告木下(昭和一六年生)、同じく右病院へ心臓病で入院していた原告瀬川(昭和五年生)及び当時家出していた原告松本(昭和三六年生)を同乗させて、琵琶湖競艇場へ遊びに行く途中で信号待ちのため停止していたこと、被告車は原告車の七ないし八メートル後方にギアをニュートラルにし、ブレーキペダルを踏んで停止し、地図により行き先を探しているうち右ペダルにかけていた足がゆるみ、たまたま現場が緩い下り坂(勾配一〇〇分の三)であつたため被告車が動き出したこと、井原がこれに気付いて急制動措置をとつたが間に合わず、時速約五キロメートルの速度で原告車の後部に追突したこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する<証拠>は措信できず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

二そして、原告主張の責任原因事実は当事者間に争がない。

すると、被告は民法七一五条の規定により、原告らが本件事故により被つた損害を賠償する責任がある。

三ところで、<証拠>を総合すると、原告上野栄二を除く原告らは、本件事故当日以降、京都市山科区内の町塚病院において診察及び治療を受けたのであるが、同病院における傷病名及び入通院状況は、各関係原告主張のとおりであることが認められ、この認定に反する証拠はなく、同原告らがいずれも自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級と認定されたことは、当事者間に争がない。

右認定事実によれば、同原告らは、本件事故により心身にかなり深刻な影響を受けたように受取られるものの、それを裏付けるに相当な本件事故に起因すると解すべき他覚的所見を認めうる証拠はない。のみならず、さきに認定したように被告車は、時速約五キロメートル程度で追突しているところ、鑑定人佐々木恵の鑑定結果によると、その程度の追突では一般的に被追突車の乗員に影響がないと解されていることなどに鑑みると、右の原告らに対する町塚病院の各診療措置及び前記後遺障害の認定は、特段の立証なき限り同原告らの愁訴に依拠した結果にほかならないと解するのが相当であるところ、これを異別に解すべき特段の事情の立証はない。

そうだとすれば、原告上野栄二を除く原告らの各受傷の主張事実に副う<証拠>はいずれも採用するに足らず、他に同原告らの各受傷の事実を認めるに足る証拠はない。

四原告車が原告上野栄二の所有であることは前認定のとおりであるところ、<証拠>によると、本件事故により原告車が若干破損したところ、その修理費として六万三五〇〇円を要するというのであつて、やや高額にすぎるとの感を否めないものの、鑑定人佐々木恵の鑑定結果をも斟酌し、これによるほかないというべきである。

五以上の次第であるから、被告は原告上野栄二に対し損害金六万三五〇〇円及び同金員に対する本件事故の日の翌日である昭和五六年二月四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負担しているというべく、同原告の請求は理由があるが、その余の原告の各請求は理由がないからいずれもこれを棄却する

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項但書、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官石田 眞)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例